神龍に遭っても願いは叶いません

ドラゴン兄ちゃんに遭遇しないようにビクビクしながらも、相変わらず夜中に徘徊していた。寝る直前、意識が朦朧としてくると食べ物を買いにコンビニに行ってしまう。まるでショッピングモールに集うゾンビのように。


しかし。あれは本当に私の身の上に起こったことなのだろうか?記憶が曖昧だし、物的証拠もないし、あまりにも現実感のない出来事だったので、私はひょっとして夢でも見ていたんじゃないかという気がしてきた。
あれが夢だとしたら私の現実はなんて生ぬるいんだろう。もっと生きている実感が欲しい。ヒリヒリするような思いをしたい。
刺青の印象は鮮烈だった。エロティックと言ってもいいかもしれない。
どんなセックスだったか覚えてないのでもう一回してみたい。刺青をもっとよく見たい。でももうこれ以上関わったらまずい。また会ったら逃げないと。そんなことを考えながらも、私は再会することをどこかで期待していた。


案の定、最初に会った時と同じ場所でバッタリ正面から鉢合わせしてしまった。顔はよく覚えていなかったが、背格好ですぐにわかった。向こうも気が付いたので逃げるのも気まずいように思えて、話しかけてみた。
薫「この間はどうも……」
ド「ああ」
薫「私忘れ物してったでしょ?(パンツ!)」
ド「あー、捨てちゃったよ」
薫「別にいいけど。ところでおにいさん年いくつ?」
ド「何で?言ってなかったっけ?40」
薫「(よんじゅう?!マジかよ!)いや、別に。ところで、ご職業は……?」
ド「建築関係と風俗店」
薫「(やっぱりー?!)あ、そうなんだ、それじゃ……」
そのままさりげなくハケようとすると連絡先を聞かれた。メールとか面倒なことはしないそうで、電話番号だけ交換した。教えるなよ私!
ド「ウチ来なよ」
薫「え?今?私、明日仕事で早いから無理」
ド「15分で済むから」
ハアア?!まだあなたとセックスするなんて言ってませんけど!15分って早くね?また服脱がないで入れるだけ?私は性欲解消マシンですか?つーか、あなた病気もってないでしょうね?
色々言いたいことが浮かんで来たけど、それをこの目をギョロつかせた建築業と風俗業をしてる全身刺青兄ちゃんに言う勇気と気力はなかった。何しろ意識朦朧で徘徊中の身。頭がまわらない。展開の速さについて行けず、とにかくダメと言ってこの時は断って帰ってきた。
私からドラゴン兄ちゃんに電話することになるなんて、この時は思いもよらなかった。
(長いので次回に続く)